天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

「これはね、比重の違うお酒を重い順に注いでいくと、混じり合わずに層になるんだ」
「すごいですね! 綺麗だし、面白い!」
「この店のオーナーの必殺技。今日来てるって言ってたから特別に頼んで作ってもらった」
「特別なカクテルなんですか?」
「うん。すごく神経使うしね。だから気軽に頼むとバーテンダーに嫌われる可能性もあるという、危険なカクテルだよ」

 晃さんのおどけた声を聞きながらマジマジと眺めるカクテルは、本当に虹のようだ。
 なんて素敵なんだろう! これはぜひ飲んでみたい!

「これ、飲めるんですか? 飲めますよね?」
「そりゃお酒だからね。でも原液を重ねてるだけだから味もヘチマもないよ? 観賞用のカクテルさ」
「でも飲んでみたいです! せっかくだから記念に、ぜひ!」

 これはもう、絶対に経験してみないと損!!
 私はストローをそっとグラスに差して、ワクワクしながら吸ってみた。
 するとズキーンと原液の強烈な味が襲い掛かってくる。
 口全体はもちろんのこと、ノドの奥まで一気にアルコールの容赦ない芳香が突き刺さった。

「うわ! ゲホッ! ゲホゲホッ!」
「ああ、ほらほら。お水お水」

 晃さんが差し出してくれたグラスの水を引ったくるように受け取り、慌ててゴクゴク一気飲み。
 大きく息を吐いて、しみじみ実感した。

「うわぁ、美味しくない!」
「ハハハ。だからそう言ったのに」
「だって、もったいないじゃないですか。せっかくそこにあるのに見てるだけなんて」
「うん。そうだね。もったいないよね?」