天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

「えっと、それってやっぱり」
「ああ、珍しいことじゃなく、一般的だ。それになんだかすごく意味深だと思わない?」
「意味深?」
「激しい熱で身を焼かれて、すべてを忘れてしまうなんて」

 晃さんは胸ポケットから、さっき没収したアメジストのルースを取り出す。

「熱されてみたい。この石はもしかしたらそれを望んでいるかもしれない。だから俺は……熱してみたいと思う」

 晃さんはそう言いながら、アメジストには目もくれずにじっと私を見つめている。
 お酒のせいで潤んだように光る瞳に射抜かれ、私の顔にカァッと血が集まり、額に汗が滲んだ。
 あぁ、崩れる。メイクが崩れちゃう。
 そんな顔を晃さんに見られたくない。
 でもさっきメイク直してきたばかりだし、そんなに何度も席を立てない!

 俯き、顔を軽く晃さんから背けて見られないようにするのが精一杯。
 不自然にならないよう、そっとグラスに口を寄せてワインを飲み込んだ。
 胃に染み渡るアルコールに、火照った頬がさらに熱く染まる感覚がする。
 おかげでますますメイク崩れが気になって、もうどうしようもない。

 この悪循環に鉄仮面ストレスの限界が近づいている。
 不安で、不安で、恐ろしくてたまらない。
 パニックを起こしかけているのが自分で分かるし、悲鳴をあげてしまいそうだ。

 今ほどこのトラウマを恨めしく思った事はない。
 メイクなんか気にしている場合じゃないのに。
 彼から顔を背けたくなんかないのに。
 晃さんのことだけを考えて、彼の目を本気で見つめ返したいのに!