天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 甘くて口当たりがいいから抵抗なく飲める。酔いが回って来たのか体がフワリとした。
 そろそろ危険信号かな?

「ちょっと失礼します」

 そう断ってバッグを手に持ちトイレへ立った。
 もうメイク直ししなきゃ。酔うと崩れやすいから気を抜かないようにしないと。
 洗面台の前へ立ち、鏡を覗き込むと、やっぱり崩れてきてる。
 しっかり対策はしているけど、顔が火照るからどうしても崩れるんだよね。
 ファンデは薄塗りすれば汚く崩れないけど、私に薄塗りなんて無理な話だし。
 はあ、何があっても絶対に崩れない、永久不変のメイク用品ってそろそろ開発されないかな?
 でもそれじゃほとんどイレズミか。

 長々とトイレに籠ってメイク直しはしていられないから、手早く済ませなければならない。
 出来上がりは正直不服だけど、晃さんを延々待たせるわけにいかないし、この程度で手を打たなきゃ。

 席に戻ると、今度は入れ違いに晃さんが席を立った。
 私はふぅっと息を吐き、手で顔をパタパタと仰ぐ。
 顔、冷えろ冷えろ。皮脂、出でくるな。あんまり飲まないようにしなきゃね。
 晃さんが戻って来て、自分のグラスを持ってさり気なく私の隣に座る。
 てっきり向かいの席に座るとばかり思っていたから、あれ?と彼を見上げた。

「聡美さん、遠慮しないで飲んで」
「あ、はい。飲んでます」
「もっと」

 晃さんはワイングラスを持ち上げ、私に差し出した。

「言ったろ? 俺、キミを酔わせるつもりだから」