天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 タクシーが停車したお店は、ガラス貼りで解放感のあるドアの周りに、小さな観葉植物がたくさん飾ってあるお店だった。
 そのドアを晃さんが開けてくれると、中から洒落たジャズのメロディーが聞こえてくる。
 晃さんに背中を軽く押され、店の中に入ると、各テーブルのお客が思い思いに傾けているアルコールの色がまるで宝石のように目に飛び込んできた。
 長いカウンターの向こうに、色や形の様々な、数えきれないほどの種類のボトルが並んでいる。
 スツールに並んで腰かけている男女の低い囁き声と、女性のヒールが印象的。
 私たちは店の奥のシンプルな黒い革張りのソファーに向かい合って座った。
 テーブルの上のキャンドルが暖かく揺らめいて、人々が交わす控えめな声の会話と、ジャズボーカルの女性のハスキーな声が気持ち良く耳をくすぐる。

「聡美さん、何を飲む?」

 室内の雰囲気に気分を良くしていると晃さんが聞いてきた。

「あ、そうですね。ええっと、バイオレットフィズを」

 運ばれてきた背の高いグラスの中は、澄んだ紫色のカクテル。
 バッグの中に忍ばせているアメジストを連想させてくれる綺麗な色だ。
 晃さんはロックグラスを傾け、氷を入れた琥珀色の液体を味わっている。
 初めて見る、アルコールを飲む彼の姿がとても新鮮に感じられてドキドキしてしまう。
 動揺を悟られないように私もグラスに口をつけ、そっとカクテルを喉に流し込んだ。