天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 セカセカと両足を動かし、待ち合わせ場所へ向かってひたすら移動する。
 できれば晃さんよりも先に到着したい。彼が来る前に、ぜひメイクのチェックをしておきたい!
 でもそんな祈りも虚しく、私の目は待ち合わせ人を発見してしまった。
 あぁ、間に合わなかったか!
 いや、時間的にはセーフなんだけど。

「晃さんすみません! お待たせしました!」
「いや、俺もいま来たとこだから」

 そんな定番のやり取りが気恥ずかしくて、照れ隠しに微笑んだ。
 そしてあの日のように肩を並べて、お店に向かって歩き出す。
 あの時とは少しだけ状況の変わった私たち。でもこの浮かれる心は、あのとき以上かもしれない。
 お店について、エスコートされてメニューを開くのも、まだなんだかぎこちないし。

「指輪」
「え?」
「指輪、はめてきてくれたんだね」

 メニュー越しの晃さんの視線が私の指に注がれている。
 私の右手の薬指には、あの日彼からプレゼントされたエメラルドの指輪が輝いていた。
 普段は堂々と身につけられないけど、今日ばかりは大手を振って指にはめてきたんだ。

「似合うよ。すごく」
「ありがとうございます……」

 彼の爽やかな笑顔が眩しくて、真っ直ぐ見返せない。
 嬉しくて締まりなくニヤついてしまう顔を、慌ててメニューで隠した。