天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~

 そして……いよいよ迎えた当日!
 私は仕事がお休みの日だったから、朝から緊張と興奮がMAXでも、周囲にそれほど実害がなくて幸いだった。
 ヘアメイクサロンに行ってプロにバッチリ決めてもらおうか真剣に悩んだけど、熟慮の末にやめておいた。
 私の場合、力み過ぎると不運を招く傾向がある。
 そんな自分を鑑みたうえ、通常通りでいこうという結論に達した。

 いつも通りのヘアスタイルと、いつも通りのメイクの身支度を終えて、約束の時間よりもずいぶん早めに家から出ようとした。
 ちょっと早すぎるけど、途中で突発事故が起こらないとも限らない。待ち合わせの時間より余裕をもって出かけよう。
「行ってきます」と、玄関に手をかけたちょうどそのとき、お姉ちゃんが不思議そうに声を掛けてきた。

「あら聡美、どうかしたの?」
「え!? ど、どうもしないよ!? 今晩出かけるって言ってたでしょ!?」
「それは聞いてたけど」
「じゃあ、なによ!?」
「今日はずいぶん気合いが入っているのね。やたらと化粧が濃いわよ?」
「え……」

 私は無言で洗面所に駆け込み、倍速モードでクレンジングした。
 急げえぇーー! ぜんぶ最初っからやり直しだあぁ!
 丁寧に洗顔して、基礎化粧品を塗り込んで、それから気合いを入れてメイク……あぁ! 気合い入れちゃダメなんだっけ!
 細心の注意を払いつつ、普通のメイクを終えたときには、もう出発時間ギリギリだった。
 い、急げえぇぇーー!