君が私を思い出せなくても。










ゆっくり階段を降りて、
柊ちゃんの方へと歩いた。


足音に気づいたのか、
私の方を見た。





「あっ、さっきの」


「どーも。自己紹介してなかったから
しておくね。私、大崎 杏菜です」


「俺は、水野 柊一郎。
さっきはいきなりだったから
あんなんでごめんな」






意外と素直に謝ってくれて
ちょっと嬉しかった。





「いいよ!気にしてないし」



そう私が言うと、
柊ちゃんから話しかけてきた。






「てか、何で俺の名前知ってたの?
前にも会ったことあったっけ?」


「あるよ」







私はさらっとそう返した。


柊ちゃんはうーんと悩んでいる様子。







「そりゃ、覚えてないよね。
会ったの10年前だもん」


「ふーん。その頃の記憶全くねーからなー。なんで思い出せねーのかもわかんねーし」



事件の記憶も、
全部忘れてたもんね。