私に意味を。

〜及川祐side〜

「俺の母親はさ、俺を産んで死んじゃったんだ。」

俺が見たことのある母親の顔は、写真の中だけ。

ビデオレターなんて、洒落たことはできない人だったらしいから、声も聞いたことがない。

「それで俺の父親は、変に気を張っちゃって今じゃ仕事ばっかりでさ。」

ここに転向して来たのだって、父親の仕事の都合。

でも。

「俺は、それなりに幸せだった。元々、一人で居るのは嫌いじゃないし。」

家で一人で居ることを、苦だと思ったことはない。

小さい頃から、それが当たり前だったから。

「いつもニコニコしてたから、それなりに友達も居た。」

学校生活で困らない程度に、友達も作った。

孤独は嫌いじゃないけど、集団生活を義務とされているから、それだと不便だったし。

「でも、笑顔を作ってる間に、自然に笑えなくなった。」

鏡を見ても笑ってる俺の顔は何処か不恰好で。

それで構わないはずなのに、なぜか無性にさびしくなって。

「そんな時に、鮎川さんを見て、すごいなって思った。」

あんなに無表情な人、初めて見た。

俺が話しかけても、笑顔なんて作ってなかった。

「俺は、自分を偽ってばっかりだったから。」

まっすぐすぎる鮎川さんの瞳が、眩しかった。

他人にどう思われようと、自分を貫く。

俺は、そんなこと出来ないから。

「だから、」

羨ましい。

鮎川さんが。

俺にないものを持っているから。

「鮎川さんは、そのままでいいと思うよ。」

朝、『好きってどんな感情ですか?』って言われたとき、ちょっと思った。

鮎川さんは、自分を変えたいと思っているんじゃないかって。

だから、伝えたかった。

手遅れになる前に。

自分を見失う前。

俺のようになる前に。