「俺が剣道好きなのはさ、自然体で居られるからなんだよね。」
自然体、か。
「剣道って大声だして相手と勝負するんだけど、試合中のことって、いっつも覚えてないんだよね。」
「え?そうなの?」
頭脳戦、みたいな感じで、いろいろ考えると思ってたけど。
「剣道の試合は3分しかないから、全力で声出して、全力で竹刀振って、全力で相手に挑む。ただそれだけしかないから。」
・・・そうなんだ。
でも、すごいと思う。
たった3分間のためだけに、一生懸命練習するんだ。
そしてその成果を、たった3分間で出し切るんだ。
「でも、剣道の試合ってすごい個性が出るんだ。動きが早かったり、よけるのがうまかったり、騙すのがうまかったり。」
個性・・・。
剣道には、あまり詳しくないけど。
でも、状況が目に浮かぶ。
きっと、いろんな人がいるんだろうな。
「上手な人ほど、個性が出る。上手な人ほど、剣道が好き。多分その理由って、剣道が自然体で居られるからだと思うんだ。」
なるほどね。
「つまり及川君は、剣道をやってる時が、一番自然体の自分なんだ。」
「・・・え?」
え?って・・・。
だってそうでしょ?
まさか、自分で気づいて無かったとか?!
「・・・いや、そんな答えが返ってくるとは思ってなかったから。」
「・・・どういうこと?」
「・・・鮎川さん。今日の放課後、空いてる?」
今日は、部活ないし。
「空いてる、よ?」
「じゃあさ、ちょっと、付き合ってくれない?」
「うん・・・。いいよ。」
何か、あるんだ。
今日の放課後。
「ありがとう。じゃあ、ご飯食べよっか。」
「・・・そうだね。」
及川君の放課後の何かは気になるけれど。
それは時間が解決してくれる。
だからとりあえず今は。
「「いただきます。」」
何も知らないままで居よう。

