「初めまして、崎村杏香です、
初めまして、崎村杏香です、
初めまして、崎村杏香です…」

「杏香ー?いかなくていいのー?」

「えっ、あ、い、いってきまーす!」


お母さんに見送られて
あたしは今日から
お世話になる学校に向かった。


崎村杏香(サキムラ キョウカ)、高校2年生。


お母さんの仕事の都合で
引っ越してきた。
お父さんはいない。
あたしが小さい時に離婚した。

でもお母さんがいてくれるから
寂しくなんかない。


「…どっちだっけ……」


転入する高校への行き方を
覚えたはずなのに
記憶があいまいで。


「…こっち?あれ、違う気がする……」


梅雨に入るじめじめしたこの季節。
雨が降り出しそうな予感。


高校2年生になるのに
迷子になってしまった。