「いいんだぞ。正直に言ってくれて。俺自身、最低だと思ってるんだから……」
「ん……私にはよく解らないけど、人の心は色々と複雑だから、一概にいいとか悪いとか言えないと思うのよね。過ちに気付いたなら、それでいいんじゃないかしら。お兄さんに気付かれる前で良かったじゃない?」
私がそう言うと、なぜか阿部和馬は黙り込み、虚ろな目をした。
「どうしたの?」
「兄貴は知ってるよ」
「……えっ?」
「この間、兄貴から言われたんだ。“裕子は浮気しているらしい”って。あ、裕子っていうのは彼女の名前な?
でも兄貴は裕子さんを責めるつもりはないって言うんだ。“体だけなら構わない”って……
それを言われて思ったんだ。兄貴は裕子さんの浮気に気付いただけでなく、その相手が俺だって事にも気付いてるんだろうなって。そしてそれを黙認するが、裕子さんの心までは取らないでほしいと俺に言いたかったんだと思う。兄貴は兄貴なりに、裕子さんを愛してるんだろうなあ……」
「嘘でしょ? そんな事……」
あり得ないと思った。愛する女性が、というか妻が、他の男に抱かれるのを許すだなんて……
「いや、本当さ。俺も信じられなかったし、今でも兄貴の考えは理解出来ない。でも裕子さんに話したら、彼女は納得してたよ。“あの人らしい”って言ってた。兄貴は俺の事が好きだから、ともね」
「…………」
私は何て言っていいかわからなかった。私にも妹がいるし、妹のことは好きだけど、もし私の恋人や夫が妹と浮気をしたとして、それに気付いてしまったら、阿部和馬のお兄さんのように黙認なんて出来るだろうか。出来ないだろうなあ。
あ。もし私が病気や怪我で、恋人や夫の相手が出来ない体になったとしたら、あるいはお兄さんみたいな心境になるのかしら……
「嫌な話を聞かせて悪かった。おもいっきり引いたろ? じゃあ、俺は帰るな?」
そう言って阿部和馬は、私に背を向けようとした。
「ん……私にはよく解らないけど、人の心は色々と複雑だから、一概にいいとか悪いとか言えないと思うのよね。過ちに気付いたなら、それでいいんじゃないかしら。お兄さんに気付かれる前で良かったじゃない?」
私がそう言うと、なぜか阿部和馬は黙り込み、虚ろな目をした。
「どうしたの?」
「兄貴は知ってるよ」
「……えっ?」
「この間、兄貴から言われたんだ。“裕子は浮気しているらしい”って。あ、裕子っていうのは彼女の名前な?
でも兄貴は裕子さんを責めるつもりはないって言うんだ。“体だけなら構わない”って……
それを言われて思ったんだ。兄貴は裕子さんの浮気に気付いただけでなく、その相手が俺だって事にも気付いてるんだろうなって。そしてそれを黙認するが、裕子さんの心までは取らないでほしいと俺に言いたかったんだと思う。兄貴は兄貴なりに、裕子さんを愛してるんだろうなあ……」
「嘘でしょ? そんな事……」
あり得ないと思った。愛する女性が、というか妻が、他の男に抱かれるのを許すだなんて……
「いや、本当さ。俺も信じられなかったし、今でも兄貴の考えは理解出来ない。でも裕子さんに話したら、彼女は納得してたよ。“あの人らしい”って言ってた。兄貴は俺の事が好きだから、ともね」
「…………」
私は何て言っていいかわからなかった。私にも妹がいるし、妹のことは好きだけど、もし私の恋人や夫が妹と浮気をしたとして、それに気付いてしまったら、阿部和馬のお兄さんのように黙認なんて出来るだろうか。出来ないだろうなあ。
あ。もし私が病気や怪我で、恋人や夫の相手が出来ない体になったとしたら、あるいはお兄さんみたいな心境になるのかしら……
「嫌な話を聞かせて悪かった。おもいっきり引いたろ? じゃあ、俺は帰るな?」
そう言って阿部和馬は、私に背を向けようとした。



