素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜

真琴は買い物カゴにパンや牛乳なんかを入れ、俺が立つレジの前に来て、

「こんばんは」

と言った。彼女の顔が赤いのは、どうやらアルコールのせいらしい。今夜は会社で飲み会でもあったのだろう。


「お帰り。お疲れさま」


なんて、いつもは言わないような言葉が、自然と口をついて出たのには我ながら驚いた。それにしても……


真琴って、こんなに可愛いかったか?
しかも色気まで感じるのはどうした事だろう。今までは女っ気は全く皆無だと思っていたのに。あ、そうでもないか。

あの時の真琴も、結構色っぽかったような……

おっと、仕事しなきゃだな。
俺は真琴に釣り銭を渡しながら、


「話があるから後で行っていいか?」


と小声で言った。もちろん、裕子さんとの関係を絶った事を真琴に告げるためだ。一応は疑問形で言ったが、真琴に断られるなんて事は全く想定していなかったのだが……


「今夜は無理。お客さんがいるから」


と言われてしまった。しかもお客さんってどういう事だ。こんな夜遅くに……


「お客さん?」


思わず俺が聞き返すと、真琴の横に男の客がスッと並んだ。俺は真琴の事ばかり見ていたらしく、その客の存在に気付いていなかった。