アイスコーヒーを戴き、私達は早々に喫茶店を出て近くのレストランへ移動した。イタリア料理のお店だった。


「僕はワインが好きでね。君は……?」

「あ、はい。少しでしたら……」


と私は控えめに答えた。本当は、ワインはかなり好きなのだけど。


「そう? では……」


曽根崎さんはボーイさんにワインの銘柄を告げた。私は聞いた事もない長い名前をスラスラと。もちろんキザな仕草で。


「あの……ひとつお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


私は、今の状況について曽根崎さん本人に聞いてみようと思った。つまり、なぜ曽根崎さんは私を食事に誘ってくれたのかを。あれから何度もそれを考えてみたけど、答えは未だに出ていなかったから。


「いいよ。何かな?」

「えっと、どうして係長さんは私を食事に誘ってくださったんですか?」

「ああ、それか。その前に、その“係長”と呼ぶのはやめてくれないかな?」

「あ、はい。すみません」

「ん。それはだね、自慢じゃないが僕は女性の気持ちに敏感でね」

「はあ」


意味が分からない。


「来た当初から君が僕に熱い視線を向けていた事、僕はすぐに気付いていたよ。もっとも、君だけじゃないけどね」

「えっ? それは……」


そうだろうか。確かに私は曽根崎さんの顔を何度も見ていたけど、“熱い視線”ではなかったと思う。阿部和馬の顔と比較してただけだし。

ああ、そうか。曽根崎さんはそれを勘違いしちゃったのね……


「違うんです。私はただ……」

「いいんだよ。恥ずかしがる事はない。僕も君が気に入ったから」

「えっ?」