「あ、の、私……」
肩を小刻みに震えさせながら、ジリジリと後退していく沢森。
「沢森、これは誤解だって!」
「私、き、気付かなくて……」
「沢森!俺の話を聞けって!」
「一人で、舞い上がってたの……?」
どんどんと暗くなっていく沢森の瞳。
このままじゃ埒があかない、と俺が沢森に駆け寄ろうとした瞬間。
「木村君……」
とても静かな、そして穏やかな声で名前を呼ばれたから、俺は思わず立ち止まってしまったんだ。
手を伸ばせば触れられる距離で。
だけどなぜか、身動きできなくて。
まるで、囚われたように──
沢森は俺を見つめると、いつもの柔らかな笑顔で
「……今までありがとう。私、楽しかった……」
一粒の涙を溢してそう言うと、踵を返して走り去っていった。


