【完】恋愛距離*.゜ーボクラノキョリー





「あ、の、私……」


肩を小刻みに震えさせながら、ジリジリと後退していく沢森。


「沢森、これは誤解だって!」

「私、き、気付かなくて……」

「沢森!俺の話を聞けって!」

「一人で、舞い上がってたの……?」


どんどんと暗くなっていく沢森の瞳。


このままじゃ埒があかない、と俺が沢森に駆け寄ろうとした瞬間。


「木村君……」


とても静かな、そして穏やかな声で名前を呼ばれたから、俺は思わず立ち止まってしまったんだ。


手を伸ばせば触れられる距離で。

だけどなぜか、身動きできなくて。


まるで、囚われたように──


沢森は俺を見つめると、いつもの柔らかな笑顔で


「……今までありがとう。私、楽しかった……」


一粒の涙を溢してそう言うと、踵を返して走り去っていった。