なんでそんな風にいったのかはわからない。
ただ、沢森と話す口実が欲しかっただけかもしれない。
でも沢森に「頑張れ」って言われたらやる気が出るのも本当。
「なんか沢森に言ってもらえたら俺、頑張れそう」
そう言うと、沢森は目をしばらく泳がしてから、眉を八の字にして、困ったように俺を見上げた。
その顔がほんのり赤いから、掴んだ腕を引っ張って抱き締めてしまいたくなる。
そんな涙目で俺のこと見て、俺をどうしたいの?
「……言ってよ」
「……が、頑張ってください」
敬語なのが少し残念だけど、その威力は膨大だ。
胸がきゅう、と締め付けられる。
「さんきゅ……頑張るわ」
うん、頑張れる。
沢森の言葉を思い出せば、頑張れる。
俺はそう心の中で唱えて、沢森の前髪にキスを落とした。
そしてぽかんとする沢森に小さく笑ってから、俺はその場を後にした。


