木村君はどう言えば、私が断れないのを知ってるんだ。
「嫌?」
「……そんなこと、ないですけど」
「じゃあ決まりな!」
「待って!そんな勝手に……」
半ば押し切られるようにして決められそうになった約束に、思わず反論すると、不満気な瞳が私を見た。
でも、ダメだよ。
今日だけならと思って、隣に座るのも、二人きりなのも許したんだもん。
ほんとはこんなの、ダメ。
恵梨、と優しく私の名前を呼ぶ笑顔が脳裏にちらつく。
すう、と息を吸い込んで、だけどやっぱり木村君の顔を見ることは出来なくて、目をそらしながら私はつぶやいた。
「私、渓斗君が……」
私には、彼氏がいる。
「土屋が何?」
途端、不機嫌さを隠さなくなった木村君に思わず竦む。


