自分から近づいたくせに、いざ向こうから寄られるとどうすればいいのかわからなくなる、とか情けない。
抱きしめたい衝動がこみ上げてきて、なけなしの理性でどうにか堪える。
「──で、だからここはこうなるんです。わかりました?」
下唇を噛み締めながら、本能と理性の狭間で揺れていると、不意に沢森のくりっとした瞳がこちらを向いて。
髪の毛を耳にかけながら見上げた沢森が綺麗過ぎて、また心臓が騒ぎ出す。
「木村君?」
「えっ、あ、おお」
「……本当に聞いてました?」
疑いの眼差しを向けられて、誤魔化すように苦笑いする。
……あー、これ、駄目な奴だ。
好きな奴のとなりで冷静に勉強出来るほど、俺は大人じゃない。
でもだからって、二人きりでいられるチャンスは逃さない。絶対。
「なあ、明日もこうやって教えてくんない?」
「え?」
「……どうしても嫌なら、いいけど」


