「ご、ご注文をお伺いします」
早く注文を聞いてここから去ろう、と思った瞬間。
「俺さあ、今日彼女に振られちゃってさー、傷心中なんだよね」
金髪の男の人が、私の腕を掴んだ。
ぞわ、と寒気が背中を走る。だけどお客様だから、それを振り払うこともできなくて。
「そ、そうなんですか」
「そー、だからさ、慰めてくんない?」
ニヤニヤと無遠慮な笑みをぶつけられて、泣きそうになる。
やだ、怖い……!
「──っにしてんだよ!」
耐えられなくて、ぎゅ、と両目をキツく瞑った時。
耳を劈くような怒号が聞こえてきたかと思ったら、私の手を掴む力がふっと消えた。
「気安くコイツに触ってんじゃねえ!」
そして、私を庇うように前に立ちはだかったのは。
「木村、君……!」
「……大丈夫か、沢森」


