まだ、沢森の温もりが残ってる。

シャツをぎゅ、とあの小さな手で懸命に握られた感触も。


ふわりと俺の頬を擽っていた、柔らかな髪の匂いも。


本当はまだ雨も強いし危ないから、沢森を家まで送り届けたかったんだけど。


でも、逃げてくれて良かった。


……あのまま二人でいたら、うっかりキスの一つでもしてしまいそうだったから。


「あーくそ、可愛い」


雷に怯えるとか。

そんな可愛い一面ばっか見せんな。


どんどん、好きになるだけだ。


それから、プリントを職員室に持っていってから、昇降口に向かう。


雨はさっきよりも小降りになってたけど、まだ少し強めで。


──沢森は、無事に家にたどり着いたかな。