唇を尖らせて、じろ、と俺を見上げた沢森。
なんでって、そんなの──。
「近くにいたいから」
それ以外の理由なんてない。
折角の二人きりなのに、近付かなかったら勿体無いし。それにもともとそう広くはない机だし。
せいぜい座れても四人くらいの、灰色の正方形のデスク。
壁に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきた俺は迷いなく沢森の隣に座ったのだが、沢森はどうやらそれが気に入らなかったらしい。
「ひ、必要以上に近づかないでください……!」
沢森は顔を真っ赤にさせながらそう言い、ガタンと立ち上がると、俺の斜め前の位置に移動した。
どっちにしろ距離は近いけど、隣より真正面よりは遠い。
「なんで?」
強情だなあ、なんて考えながら頬杖をついて、沢森にそう訊く。
沢森は俺とは目を合わせないまま、ホチキスを扱う手を止めた。
それから、一呼吸忍ばせて。
「……私には、彼氏がいるからです」
はっきりとした口調で、そう言った。
……あーあ、馬鹿だな俺も。
沢森がそう答えるってこと、わかってたのに。


