「それでも、恵梨のことは譲らないから」


絶対に。

こんなに好きになった女の子、初めてだから。


木村は、わかってるよ、と自嘲するように笑って。


──そして、現在に至る。


「……そろそろ帰るか。午後、沢森とデートなんだろ」

「あ、ああ……」


ガタリ、と椅子から木村が立ち上がったから、俺も慌てて立ち上がる。


財布を出そうとすれば、いいよ、と木村に止められた。


「話聞いてもらったの俺だしな。ここは払う」

「いや、でも」

「人の善意くらいありがたく受け取れ」


ちょっとムスっとしながらそう言った木村に、じゃあ、と少し笑う。


──ああもう、やめて欲しい。


木村と居る時間が増えれば増えるほど、木村の良さが浮きだってくるから。


木村が、女を遊ぶような最低な野郎じゃないって、わかってしまうから。


気がきくとことか、優しい所とか、真っ直ぐな所とか。