恵梨が転校していったのは六月の終わりで、もう七月に入るくらいの時だったから、夏休みは案外早くやってきた。
だけどそんなほんの数週間さえ、俺にとってはとてつもなく長い日々で。
学校が夏休みに入った瞬間、恵梨にメールをすることすら惜しんで、俺は東京に旅立った。
恵梨の家は事前に教えてもらっていたから、大分道に迷いはしたものの、無事に恵梨の家まで着いた。
まだ帰ってきてないかもな、と腕時計を確認しながら、インターホンを押そうか押すまいかで悩んでいたら、ふと向こうから恵梨らしき人物が歩いてくるのを見つけて。
恵梨、と声に出そうとして──その横に立つ見知らぬ男を見つけて思わず言葉を飲み込んだ。
人違いか?と思った。もしかしたら他人の空似で、あれは恵梨じゃないのかもしれない。
だけど距離が縮まるほど、それは恵梨本人で。
──誰だよ、そいつ。
モヤモヤしたものが心の内を這いずるのを感じながら、俺はさも今恵梨の存在に気がついたようなフリをして、「恵梨!!」と呼んだ。
「渓斗君!!」
恵梨はすぐに俺の存在に気がついて笑顔を溢し──隣に立っていた男は、困惑した面持ちで俺を見た。


