「イチがさ、話してくれたんだよ」


 4人でいた頃のこととか、あの丘でどんな話をしただとか。


「イチは“あの時”もう親友だったから、こいつの言う言葉は信じられるって思ったし、信じて受け止めなきゃって思った」


 あの時っていうのはきっと、わたしが卒業してからの話だ。


「そうやって少しずつ俺の知らない俺が増えるたびに、周りにいたみんなのこともだんだん思い出し始めた」


 それは、小学校の時の記憶から順に思い出されていったと、カナは言った。


「少しずつ思い出して、急に怖くなって、ちゃんと知ったんだ。……美月がもういないこと」


 カナは悲しそうな、困ったような目でわたしを見つめた。


「確かめに行ったんだ、美月の家に。信じられなくて。……そうしたら、どこか見慣れたローファーが2組、置いてあるんだよ」


 傘も色違いのものが2本ずつ。


 玄関を上がってすぐ右手にあるわたしとミヅキの部屋のプレート。


 その一枚が裏返っていることにも気が付いた、って。


「おばさんにリビングに通されてさ、また気付いたんだ。やけにお揃いのものがたくさんあるな、って」


 それはきっと、全部わたしとミヅキのもの。


「仏間に通されて、遺影を見て、やっと信じられた。美月はもういないんだって。……美月の代わりに、俺のために、葉月は傍にいてくれたんだって」