君の世界からわたしが消えても。


 ざわざわ、木々の擦れる音がする。


 草を撫でるように駆けていく風が、足元を通り抜けていく。


 輝く太陽は雲に隠れ、なびいた長い髪が宙を舞い。


 “三日月”が、揺れた。


 ……わたしたちは今、桜の丘に立っている。


「風、気持ちいいね」


 8月の終わり、桜の木に囲まれたこの場所はいくらか涼しくて、今は太陽も姿を見せていないから、夏らしい暑さは感じない。


 秋の匂いすら感じられるくらいだ。


 見下ろした町は、今日もやっぱりきれいだった。


「ここって……」


 懐かしむように目を細めたカナ。


 それを視界の端に捕えて、ほっとした。


 忘れてしまっても、懐かしいっていう感覚は少し残っているみたい。


「ここ、よく来てたよな……?」


 わたしとイチの顔色を窺うようにそう言ったカナに、わたしたちは無言で頷いた。


「前に、みんなで来た気がするんだ……」


 くしゃっと顔を歪めたカナの一言は、わたしの胸に亀裂を入れた。


 カナの言う“みんな”って、誰だろう、って。


 その中に、きっとわたしはいないから。