君の世界からわたしが消えても。


「カナ、奏汰? そんな持ち方じゃだめだよ? ほら、ちゃんとこう持って……」


 カナの呼び方を、また間違えそうになった。


 ……ううん、今はそんなこと気にしなくていい。


 とにかく、カナの箸の持ち方がやばいんだもん!


 見ていられなくなって、思わず箸を持つカナの手に触れた。


 もう、親指が変なとこにあるから箸動かしにくいんだよ。


 まあ、今はしょうがないのかもしれないけど……。


 そう思いながら持ち方を正してあげる。


 まるで、手のかかる大きな子供だ。


「よしっ、今度はちゃんとこれで……?」


 なんとなく静かだなと思って顔を上げたら、さっきまで喋っていた大部屋の患者さんたちが、みんなニヤニヤとしながら黙ってこっちを見てた。


 それに少し焦る。


 ……待って。


 わたし、なにかしちゃった?


 イチに助けを求めようと彼の顔を見ると、機嫌が悪そうな顔をしていた。


 いつもこんな顔だけどさ。