(───追いかけないと、また見失う) 「何で」 (もう、見失いたくない) 「どうして」 (失いたくない) 「だから、何で」 心が追いかけろと訴え続ける。ずっと暴れ続ける心臓の鼓動が、痛いくらいに頭の中で鳴り響いている音がして。 それから、名前も知らないはずの彼女の泣く声が聞こえて。 「───っ」 俺は、知らぬ間に足が動き出していた。 制服が雨に濡れて染みになっていくのも気にしないで、俺はさっき彼女が駆け上がっていった階段を上って、非常階段のドアを開けた。