「おお、芹澤さん、どうも」
「ご無沙汰しております。今回は無理を聞いていただいてすみません」
「いいんだよ、君ならいつでも歓迎だ」

 おもむきのある古風な船内で、海音は船長さんらしき人と仲良さげに話していた。


 船内は外から見るより広く、旅館の食卓みたいにたくさんの和式テーブルが並んでいた。テーブルの上には貝や魚を焼くための網が設置されている。

 私達以外のお客さんもけっこう来ている。人の気配に圧倒された。

 先に座って待ってるよう海音に言われたので、窓際の席におずおずと腰を下ろすと、隣の席に座る女性数人が嬉々とした声を上げた。

「あの人、かっこいい!」
「うちらの会社にもあんなイケメンがいればなー」

 誰のこと?

 気付かれないよう彼女達の視線の先をたどると、出入口付近で船長と談笑している海音に行き着いた。

 こういうシチュエーション、少女マンガにしかないと思ってたのに、リアルに体験することになるとは。

 モテるね、海音は……。意地悪だけど優しいし、あの外見だもん。当然か……。

 綺麗に着飾った美人ばかり。彼女達がうっとりした目で海音を見つめているのを見て、変な気持ちになった。不快で焦る、みたいな。胸の奥がギュッとしめつけられる。

 海音の隣にいてもおかしくなさそうな、美しい女性達。私、ここにいていいのかな……。かなり場違いな気がする。

 海音に好かれているなんて、やっぱりまだ信じられない。

 海音は私の何が気に入ったんだろう??


「待たせたな、悪い」
「船長と知り合いだったんだね」

 隣の女性陣から並々ならない羨望に満ちた視線を浴びつつ戻ってきた海音に尋ねると、彼はクシャッとした笑顔で答えた。

「前に、社で海を舞台にしたアニメのイラスト製作が行われたんだけど、その時の資料集めに協力してくれたのが船長でさ。色々世話になったんだ。今も、こっちの方に来る時はあの人の顔見に行くようにしてる」
「そうなんだ」

 そっか。あの人に会いに行くために、海音はわざわざ私をここまで連れて来たのか。

 仕事に協力してくれた人、か。そんな大切な相手なら、時にはこういう付き合いも必要かもしれない。立派な社会人なら、そうするのが当たり前なんだろうな……。