そんなんだから、ものごころついた時からすでに、私は父を苦手としていた。何を話しても噛み合わず、こっちの知らない話をえんえんとするからだ。正直、一緒にいると疲れてしまう。

 よく、女の子は思春期になると父親を汚がったり『不潔!』とはっきり罵って避けまくると言うけど、私にはその感覚がなかった。ただ、家計を支えるマシンガントークな中年男性なのだと、淡々と思っていた。

 一方、お母さんは、父親とは真逆で無口な人だ。昼間はパートに出て、夕方には家にいる。家事もしているしご飯も作ってくれた。でも、私や父と会話をしようとはしない。

 お母さんが何を考えてるのか分からないけど、幼い日の私は、お母さんと充分なコミュニケーションが取れないことを寂しいと感じていた。父があんな風なので、せめてお母さんには話し相手になってほしかった。私も、お母さんのことには興味があったので、何か話してもらえればウンウンと聞くことくらいはできたはず。

 でも、お母さんは、家に私がいてもその存在をスルーするみたいに、家事に専念していた。家事が終わると、パズルやビーズアクセサリー作りといった手先を使う作業を好んでやっていた。

 こっちから話しかけてもだいたい無視されるし、『忙しいからあっち行って』とあしらわれた。日に日に募っていく寂しさをごまかすため、私はイラストを描くようになった。小学校低学年の時だった。