見知らぬ大きな駅に停車すると、一気に人が降りていく。

 その中に浴衣姿の人達がたくさん混ざっていることから、花火大会の会場がこの辺りなのだということが分かった。

 楽しげに笑いながらホームに向かう人々を見ていると、自然と泣きたい気持ちはおさまる。

「お姉さんも失恋したの?」
「えっ……?」

 隣に、高校生の男の子が座っていた。降りていく乗客を見やっている間にやってきたらしい。しかも、とんでもない質問をされた気がする。

 地元では見ない制服を着ているから高校生なのだと分かったけど、私服だったら中学生に間違えたかもしれない。童顔な男の子は、顔をひきつらせる私を流し目で見て、一方的に話し始める。

「今日、花火大会一緒に行くはずだった彼女にフラれたんです。お姉さんの目的地に、一緒についてっていいですか?」
「一人旅なんだけど……」

 マイペースな彼に呆れ、私はそっけなく答える。ナンパではなさそうだけど、相手にするのが面倒だった。

 飽きたら勝手にどこかへ行くだろうと思っていたが、その考えは甘かった。

「一人旅?出会いも旅の醍醐味ですよ。せっかく声かけてくれた人をスルーするなんてもったいなくないですかー?」

 この子、本当にフラれたばかりなの?やけに元気だし、なんかナマイキ。こういう輩には気を遣わずハッキリ言ってやった方がいいのかもしれない。

「一人になりたい気分だから、あっち行って」
「お姉さん、可愛くて優しそうな顔してるのに冷たいんだね。でも、分かるよ。俺も今一人になりたい気分だから」
「だったら話しかけてこないでくれる?」

 いまだに異性からの誉め言葉やお世辞に慣れない。年下にまでからかわれて……。情けなくなってくる。

 私は立ち上がり、隣の車両に移動した。良かった。追ってくる気配はない。ホッとする。

 それにしても、変わった子だったな。失恋直後に知らない女に話しかけるなんて。よほど寂しかったのかな?

 
 男の子から距離を取るため、次の駅で降りた。

 駅員がいない無人駅。ひとつ前の駅は花火大会会場に近い大型駅だったのに、なぜこんなにも雰囲気が変わるのだろう!?

 外灯はあるけど、人のいない夜のホームは恐い。やっぱり降りなきゃ良かった。

 後悔していると、あの高校生が再び声をかけてきた。

「待ってよ、お姉さん!」
「まだいたの!?」
「ひでー言い方!こんな暗い所に一人で降りるから心配してあげたのに」
「ありがとう。でも、私の目的地ここだからもう大丈夫。じゃあね」
「こんな何もないところで何するの?泊まる場所もないし一人旅には向かないんじゃない?」
「ぐっ……」

 痛い所を突いてくる。この子、さっきの会話覚えてたんだ……。私とは一瞬話しただけなのに。