泣き虫王子と哀願少女



「まぁ適当にその辺のイスに座れよ」

「はい……」



須藤先生に言われるまま数学準備室に連れてこられた私は、手近にあったイスに腰を掛けた。



私、こんなところで何やってるんだろう……。



冷静になればなるほど、虚しさと悲しさが襲ってくる。


ついこの前潤君のことを好きだと気が付いたばかりなのに、それからわずか2週間足らずで失恋とは……。


しかも告白すら出来ずに撃沈とは、あまりにも情けなさ過ぎて自分自身がほとほと嫌になった。



「ほらよ」

「!……。ありがとう……ございます」



この前同様、可愛らしい赤いチェック柄のマグカップに入ったコーヒーを、先生が机の上に置いてくれた。



「辛い時はあったかいもん飲むと心もあったまるぞ」



「冷めないうちに飲めって」と先生に促され、まだ湯気のたつカップを口もとへと運ぶ。



「……美味しい」

「だろ?」



褒められた子供みたいに嬉しそうに笑う先生。


この前よりちょっとだけ苦いコーヒーと先生の笑顔は、その温かさと共に不思議なくらい私の心へと染み渡った。