泣き虫王子と哀願少女



驚いた私は、弾かれるように背後を振り返った。


そこには、机に寄りかかりながら腕組みをしている須藤先生が、楽しげな様子で立っていたのだった。



「須藤先生っ!」

「よう深海」



相変わらずプレイボーイ丸出しの笑顔で先生が私に笑いかける。



「毎日深海からの連絡待ってんのにさ~、なんで全然くれないんだ?」

「!? そ、そんなの、するわけないじゃないですかっ!」

「え~っ? 俺の本気、まだ伝わってなかったのか?」

「はい~!?」



須藤先生のすっ呆けた物言いに、いちいち面食らう私。


どうも須藤先生といると、自分のペースを見失ってしまう。



「や~っぱこの前キスしときゃよかったかなぁ」

「!」

「まぁあの状況じゃ、キスしちまったらそれだけじゃ済まなかっただろうけどね」

「!!!」



ニヤニヤとしながら、私の反応を楽しむかのように先生が言葉を投げかけてくる。


「でもさ~……――」



それまで散々面白がっていたのに、突然真顔になった先生が



「水沢はやめといたほうがいいぞ」

「えっ?」



いつもよりワントーン低い声でそう呟いた。