泣き虫王子と哀願少女



あまりに淡々とした光景に、その場がシーンと静まり返る。


やがて2人の姿が校舎へと消え見えなくなると、せきを切ったように周囲の生徒達が騒ぎ始めた。



「キャ~ッ! お、お姫様抱っこだよ!? お姫様抱っこ!」

「もしかしてあの2人ってデキてたの!?」

「でなきゃ普通あそこまでしないっしょ?」

「だよね~! 悔しいけどあの2人、美男美女でお似合いだもんね」

「相手、深海さんじゃなかったんだ~!」



あちこちで憶測と共に好き勝手な会話が飛び交っている。


だがどれも、私にとっては耳を塞ぎたくなるものばかりだった。



―― もしかして、潤君はリカちゃんのことが好きなの?



先程の光景が頭から離れない。


ズキン、ズキンと、痛みと鼓動が同じ速度でリズムを刻む。


ギュッと胸が締め付けられて息ができない。



―― っつ……。苦しっ……。



張り裂けそうな胸を押さえて、私はただひとりその場に立ちすくむことしかできなかった。