―― ヒタ……ヒタ……
自分の足音だけが真っ暗な廊下に響き渡る。
廃墟の病院をモデルに作られたこのお化け屋敷は、私が想像していたより遥かに高クオリティのものだった。
「う……うぅ……、怖いよう……」
抜けそうになる腰を叱咤しながら、恐る恐る歩を進めて行く。
1度建物に入ってしまったのだから、どんなに怖くても出口に辿り着くまでこの状況から逃れることはできない。
「が、頑張れ……頑張れ、私……」
途中途中で幽霊に扮したスタッフに遭遇するたび、逆にスタッフが驚いてしまう程の悲鳴をあげながら進んで行く私。
行けども行けども出口が見えなくて、心が折れそうになった。
―― ガタッ!
「痛っ!」
段差のような物につまずき勢いよく倒れ込む。
「あっ……!」
それと同時に、唯一の頼りであった懐中電灯が手から離れてしまった。
見渡す限りの暗闇に飲まれ、一歩も動くことができない。
―― もうダメっ! これ以上一歩も進めないよっ……!
張りつめていた心が一気に崩れ出す。
ついに私は膝と頭を抱えるようにして、その場にへたり込んでしまったのだった。

