小花はまる1日考えた末、その日の夜に幸鷹に海外取材の話をきりだした。


「そりゃ、また急だね。しかも半年は長いんじゃないか?
卒業してからだってできるだろ。」



「だって今じゃなきゃ、今の私の文章が書けないわ。
この企画は最初は小説家では春日丘良斗が参加することになっていたくらいなんだもん。」


「じゃあ、春日丘良斗に任せておけばいいんじゃないか。」


「そんな・・・ここでこんな大きな仕事を渡してしまうなんて。
絶対嫌よ!
一生懸命考えたけど、私やる。やることにしたわ。」



「俺と暮らすことより大切なことだと言いたいんだね。」


「たぶん・・・それに私は今ここにいたって、何の役にもたってないもの。」



「それは違うって言っただろ?
俺は君と話をして、何でもない時間を過ごしているだけで・・・。

そっか、君はそうじゃなかったんだね。
だったら俺は何もいう権利なんてないよ。

でも婚約は破棄しないからな。
半年たったらもどってくるんだろ。
そのときに、あらためて話をしよう。
話をしてどうしようもなかったら、俺はS&Y社から出ていくよ。」



「あの会社はもう幸鷹さんが主にまわしているんだから出ていかなくていいわ。
嫌だったら社名変更して、私と私のスタッフを引き揚げさせるから。

その方が手間がかからないでしょう。
私の我がままで留守にするんだから・・・」


「餞別にしとくってわけか?」


「そんなのしたくないけど、幸鷹さんが望むのなら何でもいいわ。
だって会社は幸鷹さんや新しいスタッフでもう十分経営してるって部長からきいてるし。」


「ああ、そうしてもらえるとありがたいね。
俺一人だったら意地でも出ていくと言いたいところだけど、なかなかそうもいかない。」




小花はそんな言い合いはしたくなかったけれど、実際2人で生活してみてとても楽しいとは言えなかった小花は仕事での大きなチャンスに目を輝かせてしまった。

(やっぱり、飾っておいた方がいいものは、飾っておくに限るものなのよ。)


それから2人はとくに顔を合わせることもなく、小花は新しい秘書になった山口明俊(やまぐちあきとし)に3か所ほど部屋を融通してもらって、半年予定への旅じたくを始めた。