目を覚ました幸鷹は声高らかにまず叫ぶしかなかった。

「うぉ!な、なんてこったぁーーーーー!!!!」


「あ、起きたの?でも起きるなりおっさんくさいリアクションはやめてね。
はずかしいから。」



「おっさんくさい・・・!だけどなぁ、起きたら女の子ひとりの家にだなぁ・・・しかもベッドでほぼ裸同然だし・・・。」



「やっ、やだぁ!そこらへんに着替えがあるでしょ。
ちゃんと着替えてから起きてきてよ。
昨日の状況を説明するから。」



「う、うん・・・。」



小花は昨日、幸鷹が倒れたあとのことを説明した。

ベッドに移動したのも着替えさせたのも、使用人がやってくれたことも説明した。



「そ、そうだったのか・・・ごめん。いろいろと迷惑をかけてしまった。
じゃ、俺はそろそろおいとまするよ。

着替えは送るようにするし、洗濯代もなんとか送金するように・・・」



「ねぇ、すぐにお金が必要なんでしょう。
私が出してあげる。
スポーツジムを追い出されるんなら、私が雇ってあげるけどどうかなぁ。」


「なっ・・・あのなぁ、君がお金持ちなのはわかったけど、それは君のご両親が君のために残した大切なお金だろ。
そんな大切なお金で俺の借金なんて払わせられないよ。
気持ちだけもらっておくから、ありがとう。」


「このお金は両親は関係ないわ。
ど貧乏でもなかったけれど、お金持ちとは縁が遠かったのが我が家よ。

今のお金持ち生活は私の書いた小説がベストセラーになったから。
そのお金よ。
続編も絶好調みたいで、まだまだ儲かるわ。」


「はぁ?ちょ、ちょっと待て・・・君は小説家?ベストセラーだって!
君はペンネームで有名なのか?
ちなみに何ていうんだ?そのお名前は・・・?」


「晴波優樹菜(はれなみ ゆきな)っていうんだけど・・・。」


「はれなみ ゆきなだってぇーーー!俺でも知ってるぞ。
その名前・・・本屋にいけば山積みしてあったところが夕方にはなくなっているって言われた・・・あの、晴波優樹菜だとぉ・・・!

あの、あのさ・・・君の書斎っつーか執筆活動してる机を見せてくれないか?」


「いいよ。ちらかってるけど・・・」



幸鷹は書斎を見て驚いた。
小説家の机まわりにふさわしかった。
資料が山のようにあって、出版社のやりとりもかなり行なわれているらしい。

本棚も大きくていろいろ並んでいる。
ソファには編集者らしい女性も座っている。


軽く編集者に挨拶をして、応接室までもどってくると幸鷹は小花の前で土下座した。


「たくさんのご無礼とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
迷惑ついでに大変お願いしにくいことではありますが、私めにお金を貸していただけるとありがたいです。」


「やっとわかってくれたね。だけど、そのお金があっても会社に居辛いんでしょ。
寝言で助けてくれってかなり言ってたよね。

だから条件付きで貸してあげる。」


「条件つき?」


「ええ、今日から私の運転手兼、秘書をするのよ。」


「えっ?ここで雇われるってこと?」


「嫌ならお話はナシだから。」



「わ、わかりました。何から何まで申し訳ないです。
俺は・・・いや、僕はここでお世話になります。」


「うん、これで交渉成立ね。」