「小太郎…ちょっとお花屋さんに寄って行こうな。」

「またお花買うの?」

「今日はお花じゃないよ。」



運の良いことに、花屋の前には、先日まではなかった野菜の苗が置いてあった。
それを買うのを口実に、店に寄ろうと考えた。



「小太郎……これ、知ってるか?」

「ううん、知らない。
……なんか、変なにおいがするね。」

小太郎は、ゴーヤーの苗に鼻を近付けて、渋い顔をした。



「あっ!小太郎ちゃん!」

「おばちゃん!」

篠宮さんはいつもと変わらない笑顔で僕達を迎えてくれた。



「こんにちは。」

「こんにちは。」

「苗が出てたのでちょっと気になって……」

「あ、はい。今日、入ったんですよ。」

どこか少しぎこちないものの、篠宮さんの表情はいつもと変わらないように思えた。



「篠宮さん……昨日は本当に申し訳ありませんでした。」

「い、いえ…私の方こそ……」



そんな一言で済ませられるようなことじゃないことはわかってる。
だけど、それ以上の言葉がなかなか出てこない。



「パパ、どれ買うの?」

「え…あ、そ、そうだな。
うん、ゴーヤーで緑のカーテンを作ろう!
それと、トマトときゅうりと……あ、ピーマンもあるぞ!」

「えーーー……
僕、ピーマン、いらない。」

「好き嫌いはだめだぞ!
あ、小太郎……かご持って来て!」



小太郎が話を逸らしてくれたおかげで、昨日の話はなんとなくうやむやになった。
だめだなと思う反面、どこかほっとして……



僕は両手にいっぱいの苗を持ち、家に戻った。