「僕と緑涼、そして正嗣と美佐子さんが見届けましょう。だから、ここでお互いの心の中に溜まってる不満を思う存分吐き出しちゃいなさい!」

祇儀は、橙梓と朱桜の背中をパンと叩くと、彼らの間に右手を割り込ませる。
「用意はいいかな?」
祇儀は彼らの顔を見てそう確認する。彼らは、首を縦に振るとお互いの顔を見合わせる。その様子を見た祇儀は、緑涼とアイコンタクトを取った。
祇儀は、彼らの間に置いていた右手をさっと空に向かってまっすぐ上げる。
「手は出しちゃいけないよ。いいね?」
向かい合った朱桜と橙梓の眼を見る祇儀。彼らの眼は、何かの覚悟を決めたかのような凛とした目をしていた。

「じゃ・・・始め!!」

祇儀の右手が振り下ろされた瞬間、橙梓の口が大きく開いた。

「お兄ちゃん、朱桜の事が心配なんだ!色々な所で色々な方にお世話になって、本当に心配なんだよ、何かあったらって思うと!!」
「てめぇのせいだろ!!いつもいつも監視しまくってるくせに!!あたいがそうしようとてめぇに関係ねぇだろ!!」
「関係ない訳ないだろ!!近所でも“お宅の妹さん・・・”とか言ってんだぞ!この前なんか知らないけど、おまわりさんいっぱい来たぞ!!なんか紙持って!」
「知るかそんな事!」

普段なら静かで、やさしい風が吹いているその場所に沢山の言葉が飛び交う。その一つ一つに棘がついていて、重くて痛いもの。緑涼も祇儀も、その言葉を一つ一つ拾い上げ、心の中で感情を解読していく。