葵君は声を荒げ、何か言い返そうと口を開きかけた実紗の頬を叩いたのだ。


パチンッ!と肌をうつ音が響き、周囲の人たちが何事かと視線を送る。


「ちょっと、なんてことするの!!」


さすがに黙って見ていられなくて、あたしは葵君を睨み付けた。


「陽子ちゃんには関係ない。これは俺と実紗との問題だ」


「でも、叩くことないじゃない!!」


実紗は驚いたまま葵君を見上げ、叩かれた頬を抑えている。


それほどひどく叩かれたワケではないだろうけれど、人形が人間に手を上げるなんて考えられないことだ。