悪いだなんて、思わない。


「……お金目当てよ……」


観念したように、母親は弱弱しい声でそう言った。


「お金……?」


「えぇ。


紀子が死んだ時は辛くて辛くて、ワラにもすがる思いで【彼女人形】を作っている組織に頼み込んだの。


でも……それで紀子が戻ってくると、今度は組織へ支払った莫大な借金が残ってしまって……。


そんな時、組織の人から話をもちかけられたのよ。


『彼氏人形を販売すれば、その売り上げから借金返済をしてやる』って……」


「それで、販売を始めたんですか」


「あたしは断ったのよ。


紀子のために誰かが犠牲になるのは仕方がないと思ったけれど、赤の他人の為に誰かが死ぬと考えると、怖くて……。


だけど、紀子が『それならあたしが母さんのかわりにやる』って……」


そう言いながら、ボロボロと涙をこぼし始めた。


どうやら、嘘をついているようには見えない。


「紀子さんは購入者の個人情報も売買していました。そのことは?」


そう聞くと、母親は驚いたように目を見開いて、ブンブンと首を左右にふった。


個人情報の売買は、紀子さんの独断でやっていたことか……。


すべての全貌が明らかになり、あたしはその場にズルズルとへたり込んでしまいそうになる。


しかし、足にグッと力を入れてなんとかとどまっていた。