「とりあえず、着替えちまえ」

ケダモノ碧都が、アゴでわたしに命令してきた。8歳も下のくせに…。

「ねぇ…」
「あ?」
「どうしても着なきゃ、ダメ?これ…」

もう一度広げた水着。どう見たってこれ、セクシーすぎんでしょ…。

第一、わたしに似合うわけが…

「似合う」
「へっ…⁉︎」
「だからっ…‼︎絶対似合うってーの‼︎」

ウソっ…。まさか、コイツからそんな言葉が聞けると思ってなかったよ‼︎

「えと、誰に…?」

一応、確認だ。だって、わたしじゃなかったら困るし?

って、わたししかいないから、絶対に、確実に、わたしなんだけど‼︎

「アンコ」
「…はい?」

んん?今、確かにわたしの耳には“アンコ”と聞こえた気がしたんだけど、気のせいかね?

「だから、アンコだ。アンコ」
「アンコ好きなの?」

なぜ、急に“アンコ”の話になったのかイマイチ分からなくて首を傾げた。

「ちっげぇよ‼︎お前、名前“杏”なんだろ?だから“杏子”」

はい、きたー。わたしが自分の名前を好きじゃないわけ。

よく、『杏はアンコの杏‼︎』ってクラスの男子に言われたんだ。

だから、自分の名前が嫌いになった。“杏”と付けた両親を恨んだりもした。

だけどさっき、みんながイイ名前だって言ってくれて嬉しかったのに…。

「やっぱり、ケダモノ嫌い」
「あぁん?だから、ケダモノとか言うなよ。ケダモノじゃねぇって、何度言えばわかんだよ‼︎」
「ケダモノじゃないなら、なんなのよ‼︎」
「普通に呼べばいいだろ‼︎」

普通に、って…。なんて、呼べばいいのよ。

「碧都、って呼んでほしいの?」
「ばっ、バッカじゃねぇの⁉︎呼んでほしいとか、そんなんじゃねぇし‼︎」

ほんと、碧都ってツンデレだわ。あれ?いいんだよね?

碧都みたいなヤツのこと、ツンデレって言うよね?

「あーおーとっ?」
「碧都ぉ?」
「あ•お•と‼︎」

わざと色んな碧都を呼んでみたりしてぇ〜。碧都は、イライラしてる?みたいだけど。