土下座する40代のオトコ。恥ずかしくないのかな。

「そんなことされても、もう無理だから」
「杏、俺…」
「もう、無理だってば…。ホントは、わたしの前から消えてほしいけど、真哉は課長だし。わたしから消えるね」

泣き崩れた、真哉。真哉の涙なんて、初めて見た。

傷付いたのは、わたしなのに。もう、涙一つ出やしない。

結局わたしたちは、婚約破棄した。母親には電話で話した。

会ってはいない。会ったら、わたしどうなるか、わからなかったから。

もしかしたら、殺しちゃうかもしれないし。

母親は、泣いた。『ごめんなさい』と、何度も謝って。

きっとわたしは、一生許さないと思う。母親と真哉の年の差は六つしか、違わなかったから、こっちのほうが成立してると言えばしてる。

でも、やっぱり身内との浮気は正直、気が狂いそうなくらい落ちた。

その後、すぐに退職願を出し仕事を辞めた。

色んな人に理由を聞かれたけど、話せるはずがない。

一度は話してやろうかと思ったけど、やっぱり一度は好きになった人。

わたしには、できなかった。

仕事を辞めて約半年間。コツコツと溜めてきたお金が、まさかココで役立つとは思わなかった。

完全に引きこもって、人と会うことすら拒否。

電話もメールも、できる状態じゃなかった。

そんなわたしを助けてくれたのが、悠ちゃんだった。

悠ちゃんがいなかったら、きっとまだ引きこもっていたかもしれない。