「どうした、杏」
「な、にが…」
「そんなにいっぱい、涙溜めて」
「別に、溜めてなんかっ、」

溜めてなんかない、と言おうとしても、もう溢れんばかりの涙。ウソは付けない。

すると碧都は、大きく溜め息を吐いて見せた。

「ホント素直じゃないヤツ」

碧都は頭をボリボリと搔いた。顔は完全呆れ顔。

でも、片眉を上げ口角も少しだけニッ、と笑うと言った。

「杏、来いよ」
「えっ、」
「今ならまだ間に合うぞ?ほら、早く。俺が杏以外のオンナ抱いてきていいのか?」
「……や、だ」

ボロッと一つ、涙が零れる。そうなるともう、抑えられなくなる。

「しょうがねぇヤツ」

そう聞こえたかと思うと、ギシッと音とともに、わたしの目の前に碧都が現れた。

「杏、好きだ」

アゴを持ち上げられ目線を合わすと、その真剣な目線とぶつかる。

「杏は?俺のこと、好き?」

もう、逃げられない。ウソはつけない、つきたくない。

この先どうなるかなんて、誰にもわからない。

だったら今を、生きなきゃ…。

「碧都が…好き、だよ…んっ」

わたしがこう言うってことを、わかっていたのか当然のように、塞がれたクチビル。

「やっと聞けた」

一度離れたクチビル。もっとそのクチビルに触れていたくて、思わず見つめる。