「俺ん家のほうが近い」
「…うん」
「だから。そのまま俺ん家、来いよ」

そう言われ、黙って碧都を見つめる。これがチャンスかもしれない。

そんなわたしを後押しするように、遠くのほうでピカッ‼︎と、稲妻が光ると少し遅れてゴロゴロぉ‼︎と音がなった。

そしてさっきまでポツラポツラと降っていた雨は、少しずつだけど強くなりはじめていた。

「ほら、杏。風邪引いちまう。走るぞ‼︎」
「えっ、あっ、ちょ…」

急にグイン‼︎と引っ張るから、前のめりになっちゃって。

でも碧都が、わたしの腰をしっかり支えるように抱きとめてくれたおかげで、転ぶことはなかった。

時間にしたら2分〜3分だと思う。碧都の身体と密着してるわたしの心の臓は、とてもドキドキしていて…。

「もうすぐだからな」
「う、うん…」

走るのは疲れるのに、もうすぐ離れちゃうんだ、と思ったら寂しくて。

ギュッと、碧都の腕にしがみつきながら、走った。

意外にも雨が強くて碧都の家に着いた時は、外観を見る余裕もなかった。

碧都は黒の長財布を出すと、それを入り口横にあるインターフォンみたいなのに、かざした。

すると、ピッ‼︎という音が鳴り自動ドアが開いた。

最近のって、カードキーなんだね…。わたしの家は、こんなんじゃなくて普通のアパートだから…。

泥棒とか入ろうと思ったら、入り放題だよ。