そんなわたしに、ちょっとしたチャンスが巡ってきた。

「杏、帰るぞ」
「うん。尚樹、あとよろしくね?」
「はいはい。お疲れさん」

溜まり場の仕事?が終わると毎日交代で、家まで送ってくれる。

これも最初は断ったのに、最近痴漢が出たと常連さんが教えてくれたことがキッカケでそうなった。

最初はまた四人で、モメたんだよね。だれが最初に送るか、って。

「なに笑ってんだよ」
「えぇ?あー、思い出し笑い」
「どんな」
「教えない」

今日は碧都が送ってくれる番。いつも、今日話そうって思うのに、なかなかタイミングが掴めずダラダラして。

そのうち碧都が、わたしに興味なくなったら、それはそれでいいかなって思ってたけど、それもなさそうで…。

「教えないって…。まさかオトコじゃ、」
「どうだろ?オトコかも」
「お前それっ、」
「ね、碧都‼︎雨降ってきた‼︎」

碧都は相変わらず、オトコに敏感で。何かあると、すぐにコレ。

だから最近は楽しみながら会話をしてるんだけど、今日はそうも言ってられなさそうだ。

「杏」
「え、なに?」

走ろうとしたわたしの手を握ったのは、碧都で。

その顔を見れば、真剣な顔つきでこっちまで変に緊張してきた。