「いや、じゃねぇか?」
「う、うん。大丈夫だよ、碧都は?イヤじゃない?こんなオバサンの手握って」

わたしが笑うと碧都は、腰を少し屈めて、わたしの耳元にクチビルを近付け言った。

「全然。むしろ、ずっとこうしてたい」

これが少女漫画だったら、主人公のオンナノコは“ドゥキュン‼︎”ってなって、目もハートになるんだろうな。

「どうした」
「えっ⁉︎な、にが…?」
「ココ、耳真っ赤だけど」
「き、気のせいじゃない?」

もぉ、お願い。耳元で喋らないでっ。耳に息が吹きかかるたびに、身体の中心部が熱くなるの。

「そ?じゃぁ、続けるぞ」
「うん…」

碧都が丁寧に教えてくれる。わたしよりも、ゴツゴツした手なのに器用に、たこ焼きが出来上がっていく。

「そんな感じ」
「碧都、やっぱりスゴイね。たこ焼きって、難しいなぁ」
「何度もやれば、杏も出来る」
「そうかなぁ?」

たこ焼きが出来上がる頃には、普通に会話が出来るくらい普通になっていた。

このまま碧都が、元気になってくれたらいいんだけど…。

たこ焼き作りがだいぶ慣れた頃、それは突然やってきた。

「あれ、杏ちゃん⁉︎」
「阿部、さん」

声をかけてきたのは、わたしが辞めた会社の先輩だった。