「ん、これ。冷蔵庫に、たこ焼きの命。ダシが入ってるから出して…」
「う、うん…」

碧都は、大きな冷蔵庫に行くと、たこ焼きに必要なダシを出して教えてくれた。

「たこ焼きに、必要な大事なモノは?」
「えっ。タコ…?」
「おぅ、正解。じゃぁ、タコ出してきて」
「はい」

急に問題出されるから、驚いちゃった。急いでタコを出してくると、碧都は鉄板を温めてる作業をしていた。

背の高い碧都は、長い脚を折り曲げて火を入れていた。

「へぇ〜。こんなところにあるんだね?」

碧都の横に並んで、しゃがんでみる。すると、碧都の顔は鉄板のほうではなくて、明らかにわたしを見ていた。

「杏…」

わたしの名前を呼ぶ碧都の声が、切なくて、その声に思わず抱きしめてしまいたくなる。

「うん?」

でも、わたしは気付かないふりをした。サイテーだって、分かってる。

分かってるけど、わたしにはどうすることもできないんだ。

「いや、なんでもねぇ…」

そう言って碧都は、立ち上がった。それに続いて、わたしも慌てて立ち上がった。

「鉄板が温まったら、タコを入れんだ。やってみるか?」
「うん。でも、最初にタコ入れていいの?」
「あぁ、大丈夫だ。ジュッていうから、火傷だけは気をつけろよ?」
「う、うん。分かった」

碧都の言うとおり、タコを入れるとジューッとイイ音が響いた。