「あーぁ。全然アカン」
「え?」

楓は、わたしと距離を取ると、そのイケメンと言われている顔をクシャリと崩した。

「だって杏ちゃん、全然なびいてくれへんもん…」
「いや、あの…」
「えぇよ、もう。あーちゃんには敵わへん」

あーちゃんには敵わへん、って…。そんなこと言われて、わたしはなんて答えたらいいの…。

「あー、杏ちゃん。もう行かなアカン」
「え、今って何時⁉︎」

返事に困っていると楓が、携帯の画面を見た。

もう行かなアカン、ってみんな扉の向こうにいるんだよね…⁉︎

お客さんもいるんだよね⁉︎

「うーん、今ね19時やね」
「えぇっ⁉︎ま、待って…。わたし、もしかしてかなり寝てた…?」
「せやね。二時間は寝てたかな」

に、二時間っ⁉︎やっだ、寝過ぎじゃない‼︎なにやってるのよ、わたし…。

「ってことで、時間ないし。杏ちゃん、出れるか?」
「えっ、あ、うん‼︎」

そうだよね、わたしここから出ないとみんな帰れないしね‼︎

でも、楓のあとを付いて行こうとして気付いた。

「か、楓っ‼︎ごめんっ‼︎わたし水着だった‼︎」

あーもう‼︎とことん、わたし足引っ張ってるよ…‼︎