俺は、全てを受け止めるしかできない。



“いつも通り”を心がけながら、ニコニコ愛想よく笑う俺。


けれど密かに、娘のことを観察してもいた。



美しく、どこか謎めいた雰囲気を纏っているこの娘を。






「今すぐにもかぶりつきたくなるような果実ですね」


娘は未だに、紅い果実を褒めている。


その、すべらかな白い手の上に果実を乗せ、光に当てて目を細めた。






「綺麗・・・。」


うっとりと。

まるで恋する相手のように果実を見つめる娘。




「そうだろう?綺麗だろう?」



俺は娘に自慢そうに果実のことを繰り返す。


“いつもの俺”らしく。





「えぇ、とても綺麗でちょっと見惚れちゃいました。」




へへっと照れたように娘が笑う。


その笑みは無邪気な少女のようなもので、一瞬胸が鋭く痛んだ。