ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~

その日の夕方、定時になると同時に新藤さんはさっさと帰って行った。挨拶で宣言した通りに。


そんな彼を私は目で追い、思わずハアーと溜め息をつくと、隣の課長がフッて感じで笑った。


「楠君はだいぶご不満なようだね?」

「だって……」

「じゃあ、って事でもないが、キリのいいところで切り上げて、飲みにでも行くかい?」

「はあ。いいですよ?」


という事で、私達は1時間後ぐらいに他の営業部員2人を加えた4人で職場を出て、近くの小料理屋さんへ向かった。


「いらっしゃい。お疲れさま」


小料理屋さんの暖簾をくぐると、いつものおばちゃんが笑顔で迎えてくれた。そこはそのおばちゃんが一人で切り盛りする小さなお店だけど、おばちゃんの手料理が美味しくて、私は結構お気に入りのお店だ。


「お疲れー」


まずはビールで乾杯し、料理をいくつか頼むと、


「今日は楠君がご立腹でね」


と課長が口火を切った。