ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~

新藤さんが着ている仕立てのいいスーツにショルダーバッグは、確かにあまり似合わないと思う。でも、まみちゃんを抱っこしたりを考えると、手提げの鞄では不便だろう。

スーツと言えば、まみちゃんが履いてる靴で汚れてしまいそうだ。


「まみちゃん、お靴を脱ぎましょうね?」


と言って、私はまみちゃんのベルトの付いた赤い小さな靴を脱がせて手に持った。


「悪いね?」

「いいえ、いいんですよ」


その時私は思った。新藤さんって、まだ完全には“お父さん業”が板についていないのだな、と。奥さんはいつ頃亡くなられたのだろうか……


門を出ると、私は振り返って新藤さんの家を見てみた。

白い壁が目に鮮やかな、建ってから何年も経っていないと思われる二階建ての大きめな一軒家だ。おそらく結婚と同時に建てたのだと思う。まみちゃんは3歳だから、築3~4年だろうか。


「駅まで歩きで10分ぐらいだから」

「そうですか。ところでここって……」


どこなのだろう? というか、何県?


「ん? ここはね……」


聞けば会社を挟んで私の家とは正反対の方向の、いわゆる閑静な住宅地だった。